2014年3月11日火曜日

環境にないフォント

最近,フォント環境に関する話題を耳にする機会がちらほらあったので,編集現場とDTP現場やデザイン現場におけるフォントについて,書いてみようと思います。

誌面デザインをする際に,InDesingデータをデザイナーに渡してデザイン案を出してもらうというケースがあります。その際に,本文フォントがすべてゴシック体に置き換わる場合があります。

この原因は,基本的にフォントがMac環境(Windowsでも同じです)に無いと,デフォルトのフォント(小塚とかヒラギノとか)に置き換えられることによります。


しかし,よく編集現場で,「一般的なフォントしか使っていないのに,どうしてフォントが無いのだろう」という声も聞きます。

このケースの多くが,合成フォントによる影響だと想像できます。

合成フォントを設定したInDesignデータを開くと,合成フォントに利用されたフォントが1つでも無いと,その合成フォントがすべてデフォルトに置き換えられます。

例えば,「リュウミンR,新ゴR,ヒラギノ角ゴW3」を使って合成フォントを作ったとします。
最も使われる標準のフォントですが,最近ではWindowsでDTPを行っているところもあります。
しかしWindowsでは,ヒラギノが標準搭載されていないので,この合成フォントは環境に無いフォントとなり,すべてデフォルトで置き換えられてしまいます。

もちろん,標準的でないフォントを用いて合成フォントを作っていると,こうなるケースはさらに増えます。


また,同じ名前でも,モリサワのフォントではStd,Pro,Pro5,Pro6,Pro6Nなどのバージョンがあるので,これらも該当するバージョンを持っていないと,環境に無いフォントとみなされてしまいます。

ところで,最近の若い編集者は,モリサワパスポートなどの年間契約しか知らない人も多いのですが,パスポートを導入していない人も多いということを,まずは押さえておくべきでしょう。

そもそもフォントは買い切りが基本で,パスポートは比較的新しいサービスです。
モリサワの例でいうと,モリサワパスポートが開始したのは2005年からです。
それ以前は,みんな必要なフォントをMacの台数分購入していました。金額にすればかなりの額だったと思います。

フォントの歴史を見れば,OCFからCIDになり,そして2002年にOTFが発売となりました。
写研などの汎用機からMacに切り替え,フォントもOCF→CIDと高い費用を捻出して買い足してきたDTP各社も,InDesign+OTFが主流となると,再度費用を捻出してOTFをを買い揃えました。

そして2002年〜2004年にかけてOTFをMacの台数分購入したのに,いくら年間5万円で全フォント使用できるといっても日常使用するフォントは限られているわけで,滅多に使用しない多くのフォントのために,わざわざお金を毎年払うというのは理にかないません。

(感覚的には,購入済みのフォントに対して,わざわざお金を払い続けているとなるでしょう。)

しかし2005年以降,Macの台数を増やす際であれば,必要なフォントを一式購入するよりもパスポートのほうがハードルが低いので,パスポートにしようというようになってきました。
とはいえ,Macの台数が変わっていないのであれば,パスポートにする意味は皆無です。

なお,個人のデザイナーやイラストレーターさんなどは,投資としてOTFを初期から導入する人もいましたが,しばらくはOCFやCIDを使い続けている人も多々いました。

今ではOTFを持っている個人のデザイナーやイラストレーターさんも多くいますが,いまだにOCFを使用している人もいると聞きます。

以上を踏まえると,たとえば「リュウミンR,新ゴR」のみを使っているといっても,何も知らずにパスポートに入っている「リュウミンR Pro6,新ゴR Pro6」を使っており,そのデータを「リュウミンR Pro,新ゴR Pro」しか持っていないデザイナーさんに渡せば,バージョンが異なるのでデフォルトのゴシック体に置き換わってしまいます。
(もちろん,気を利かせて変換してくださる方もいらっしゃいます。)


何も知らずに現状の環境だけを学んで仕事をしていると,このようなケースに遭遇して二度手間,三度手間となってしまいます。しかし歴史を少し知っておくだけで,効率よく,そして気分よく,よりよいものが仕上がっていくと思います。