2015年10月5日月曜日

言葉選び

先日行った生命大躍進展で思ったことを,もう一つ。

展示されている解説パネルを読んでいて,言葉選びのうまさと丁寧さを感じた。

知らない人が初めて読んでも,なるべく分かりやすく,すっと頭に入ってくる文体や言葉選びをしていた。

普段,教材制作をしていると,私などはとても重要なことだと思っているのだが,最近は言葉選びに重きを置いていない編集者が多いことに気づく。

例えば,用語や文節が行をまたぐことに違和感を覚えなかったり,一文字だけ次の行にあふれてしまったときなどに,うまく言葉を選んで,一つ前の行に収めるように努力したりということに,こだわりを持たないことだ。

子どもたちが初めて学ぶ内容について,用語や文節が行をまたいでいたら,読みにくいかもしれないということに配慮をしてこそ,教材編集者だと思う。

大人になれば,そのような文章を読むことに対する抵抗は小さくなっているかもしれない。しかし,教材編集者は,少しでも児童・生徒に,学ぶべき内容のみに注力してもらえるように文章を構成するかというのも,一つの仕事である。

読みにくい文章や体裁で,意味を読み取るのに労を要するような教材は,個人的には良い教材とは思えない。

もちろん,教材制作における必須事項でもないし,誰にも気づかれないかもしれない地味な作業であるが,それでも教材編集者が労を惜しまずに行うべき最低限の仕事の一つだと思っている。

そういうことが普通にできてこそ,より児童・生徒の学力向上に役立つ教材になるのではないかと思う。

生命大躍進展の展示解説は,このあたりの配慮が大変丁寧にされていることにも,私は感激した。

もちろん,100%完璧にそれができているというわけではないし,私も仕事上で完璧にやれるわけではない。しかし,生命大躍進展の展示解説では,多くの部分において,単語や文節が途中で行をまたがないような配慮がされており,とても読みやすかった。

このような小さな配慮は,積もり積もると大きな作業時間を要するのであるが,そういうところに手を抜いていない仕事に担当者の心遣いを実感した。

2015年10月1日木曜日

両生類から哺乳類への進化

理科の編集をしていると,説が変わることにより,内容を更新しなければならない場面がよくあります。

科学の研究は日進月歩なので,常に新しい研究発表に目を光らせていなければなりません。

とはいえ,すべの情報を知るのは難しいのも現状です。

学校で使用される教科書は,だいたい4年周期で改訂されるので,そのタイミングで新しい説に更新されるケースが多く,教材編集に携わってている人は,そこで変化を知る人も多いと思います。

しかし,教材編集に携わっている人に限らず,学校や塾の先生でも,気付かずに過ごしている人も多いのが現状のようです。

その一つに,両生類から哺乳類への進化があります。

先日,生命大躍進展に行ってきたので,ふとそのことを思い出しました。
DNA鑑定ができるようになり,進化の研究はさらにスピードが増したようで,少し知識の収集をサボっていると,あっというまに説が変わったり,複数の説が出たりということがあります。

かつて哺乳類は,爬虫類から鳥類と哺乳類が分岐する形で進化したと,ざっくりと覚えた人も多いと思います。

しかし,今の説は違います。

ざっくりいうと,爬虫類も哺乳類も,両生類から進化したというのが,最新の説です。

もう少し詳細にいうと,両生類から初期の単弓類と爬虫類系に分かれ,その単弓類から哺乳類が進化したようなのです。

さらに爬虫類は,絶滅したものを除くと,ざっくりとヘビ・トカゲ類系とカメ・ワニ類系に分かれます。

しかし,中途半端に私がここで書くよりは,興味のある方は調べてみてください。

とりあえず,現行版の教科書では,発展として進化の系統樹が載っているものもありますが,両生類が爬虫類・哺乳類へと進化したような図になっていると思います。

教科書にはそんな詳細は書かれていないのですが,知らないと間違った知識を教材に反映してしまったり,子どもたちに教えてしまったりします。

そういえば,植物細胞と動物細胞の共通する細胞小器官として,核・細胞膜のほかに,細胞質をいまだに入れているものも見かけます。

知識をしっかり更新していかないと,子どもたちに迷惑をかけるので,変化にはしっかりと対応していかなければなりません。

生命大躍進展

先日,国立科学博物館でやっていた,「特別展 生命大躍進」に行ってきた。

アノマロカリス好きの私としては,是非行ってみたいと思っていたため,何とか時間を作って見学してきた。

そもそもアノマロカリスを好きになったのは,遡ること高校2年制の頃。

NHKスペシャル「生命40億年はるかな旅」のビデオを同級生から借りて見た時からだ。
http://www.nhk.or.jp/archives/nhk-special/library/library_seimei.html

このNHKスペシャルで,いままで別々の生物の化石だと思われていた複数の化石が,アノマロカリスという一つの生物のパーツだったということから,これまでの説が覆ったということを言っており,進化の面白さを実感した瞬間で,いまでもその感動を覚えている。

また,そのアノマロカリスの模型を作成し,プールで泳がせていたのも,アノマロカリスを好きになった一つの要素でもあったと思う。

アノマロカリスだけでなく,オパビニアやハルキゲニアなど現在の生物とは違う生き物たちに,ロマンも感じたものだ。

それから数年たち,社会人になった頃,校正でお世話になっている方が,その「生命40億年はるかな旅」の録画を持っていたので借りて見て,感動が蘇ったのも覚えている。

そしてその感動が終わらないタイミングで,NHKスペシャルが「地球大進化 46億年・人類への旅」を放送した。
https://www.nhk-ondemand.jp/program/P200800000300000/

これも興奮して見た記憶がある。

それから月日は流れ,近年「137億年の物語」という書籍がブームになるなどしたが,今年放送されたNHKスペシャルの「生命大躍進」は,忙しさもあり,見ずに過ごしてしまった。

しかし,国立科学博物館でアノマロカリスの化石を見たいという衝動は抑えきれず,何とか時間を確保して,行ってきた。

案の定,とても感激し,17歳のときの興奮を思い出した。

教科書や書籍,映像などでいろいろな化石を間接的に見ることはできるが,やはり実物を見てこそだと,改めて思う。

大きさや質感,記憶や感動など,間接的な経験とは比べ物にならないくらいの経験となる。

また,編集という仕事をしているのであれば,紙面上の知識だけでなく,できれば経験をもった実感を踏まえて,その感動を書籍や教材等に反映していきたいと,改めて思った。

2014年12月3日水曜日

図版の単価と予算立て

理科の仕事をしていると,図版が必ずつきまといます。

その図版について,どれくらいの単価設定をしたらよいのでしょうか。

もちろん予算というのもありますし,実際にイラストレーターさんが作業に費やす時間というのもあります。

私がこの業界に入ったころは,まだロットリングで手描きされているイラストレーターさんもいましたが,AdobeのIllustratorも普及し始め,ベジェデータでの図版作成が急激に増え始めていました。

あれから15年も経ち,イラストレーターさんもIllustratorの操作も慣れ,さらに素材となるパーツもたくさん蓄えられているようで,かなりの短時間で作図ができるようになった印象です。

とはいえ,いくらパーツ流用がきくからといって,劇的に制作時間が短くなるわけではなく,時間がかかるものはやっぱり時間がかかります。

そのため,予算がないからといって,適正でない価格設定は,やはりいかがなものかとも思います。

私の場合は,素人ながら自分である程度までは作図できるので,私だったらこれくらいの時間で作成できるかな…という目安がもてます。

そのため,その目安をもとに予算立てを行います。


では,実際に,1点作図するのにどれくらいの時間がかかるのでしょうか。

試しに,簡単な図版の例として,回路図と試験管を作ってみました。

まずは回路図です。


約3分40秒で作れました。


続いて,試験管です。


約6分20秒で作れました。

とりあえず,サイズ等の制限なしに適当に作りましたが,サイズの指定があったり文字があったりしても,5分〜10分でできるでしょう。

こんな感じでイメージして,私の場合は15分刻みで,この図はどれくらいの時間でできそうかな…という想定をし,単価設定をします。

なので,この回路図と試験管であれば,15分の単価で予算立てをいたします。

皆さんはいかがでしょうか。
参考になれば幸いです。

2014年11月15日土曜日

立方体の切断で空間把握力を鍛える

小学校の教科書改訂を来年に控え,小学生向け教材の執筆・編集等に関わっている方は,忙しい時期を過ごしていると思います。

私は…といいますと,それほど小学校教材の制作に携わっていないので,8月頃までは忙しかったのもの,今はやや落ち着いています。

しかしながら,周りの小学生向け教材の編集に携わっている人の多くは,まだまだ忙しい時期を過ごしているようです。

皆様,「無理をせずに」といいたいところですが,改訂期はどうしても無理をしなければならない状況になると思いますので,体調管理だけはくれぐれも怠らないようにしてください。


さて,私の性格上,仕事が忙しくなればなるほど,やりたいことが増えてきてしまい,仕事時間以外でも無理をしてしまいます。

理科や数学の仕事をしていると,「空間把握力」というキーワードが必ず出てきます。
しかし,紙の教材では,どうしても限界を感じずにはいられません。

何か自分にできないことはないかなぁ…とずっと考えていたのですが,ふと仕事が落ち着いてきた9月頃,「立方体の切断」を絡めてできそうなアイデアが浮かびました。

アイデアが浮かんだが吉日,寝る時間を削りまくって,一気にコンテンツを作ってみました。

動画を用いて,「立方体の切断」を勉強するサイトです。
https://sites.google.com/site/nuchancube/home

よかったら,覗いてみてください。

「立方体の切断の3Dコンテンツ」や「立方体の切断のペーパークラフト」もあります。

2014年4月2日水曜日

化学式用 英数字フォント

2月末に公開した「計算式用 英数字フォント」に続き,Wordで使える「化学式用 英数字フォント」を作成しました。
https://sites.google.com/site/fontforchemical/

商品として見栄えの質が高い化学系書籍や問題集などをつくるのであれば,InDesignなどのDTPソフトを使用すれば,綺麗な化学式や化学反応式は表現できます。

また,最近はInDesignで原稿を書かれる教材系のライターさんや教材系の編集者さんも一部いますので,著者レベルから間違いのない綺麗な化学式や化学反応式を表現される方もいます。しかし,そのような稀な方は,全体として1%にも満たないでしょう。

もちろん,教育現場である学校の先生や塾・予備校の先生にいたっては,InDesignを使用している人はほぼ皆無だと思われます。

私が知る限りですと,パソコンを使用してテストやプリントを作ったり,出版社からの依頼で原稿を書かれたりしている先生方の多くは,Windowsに標準搭載のフォントを用いて,Wordや一太郎の基本機能だけで原稿を書かれています。それが一般的な感覚でしょう。

もしかしたら,Wordで化学式を表現するためのアドオンを入れている方もいるかも知れませんが,現状出会ったことがございません。

そんな環境のなか,ちょこっとでも普段の使い勝手のまま,Wordで化学式や化学反応式を表現できる何かがあればいいのになぁ…と,かつて思ったことがありました。

そんな中,計算式用 英数字フォント を作成し,これを応用すれば化学式用にも展開できるかも…と思い,化学式用 英数字フォント を作成してみました。

完璧なものが出来たとはいえませんが,それでも「Wordの基本機能でそこそこ綺麗に化学式や化学反応式,示性式や構造式の一部を表現する」という目的は達成できたかな…といったところです。

複雑な構造式は表現できませんが,ご興味のある方はご利用してみていただければ幸いです。

2014年3月11日火曜日

環境にないフォント

最近,フォント環境に関する話題を耳にする機会がちらほらあったので,編集現場とDTP現場やデザイン現場におけるフォントについて,書いてみようと思います。

誌面デザインをする際に,InDesingデータをデザイナーに渡してデザイン案を出してもらうというケースがあります。その際に,本文フォントがすべてゴシック体に置き換わる場合があります。

この原因は,基本的にフォントがMac環境(Windowsでも同じです)に無いと,デフォルトのフォント(小塚とかヒラギノとか)に置き換えられることによります。


しかし,よく編集現場で,「一般的なフォントしか使っていないのに,どうしてフォントが無いのだろう」という声も聞きます。

このケースの多くが,合成フォントによる影響だと想像できます。

合成フォントを設定したInDesignデータを開くと,合成フォントに利用されたフォントが1つでも無いと,その合成フォントがすべてデフォルトに置き換えられます。

例えば,「リュウミンR,新ゴR,ヒラギノ角ゴW3」を使って合成フォントを作ったとします。
最も使われる標準のフォントですが,最近ではWindowsでDTPを行っているところもあります。
しかしWindowsでは,ヒラギノが標準搭載されていないので,この合成フォントは環境に無いフォントとなり,すべてデフォルトで置き換えられてしまいます。

もちろん,標準的でないフォントを用いて合成フォントを作っていると,こうなるケースはさらに増えます。


また,同じ名前でも,モリサワのフォントではStd,Pro,Pro5,Pro6,Pro6Nなどのバージョンがあるので,これらも該当するバージョンを持っていないと,環境に無いフォントとみなされてしまいます。

ところで,最近の若い編集者は,モリサワパスポートなどの年間契約しか知らない人も多いのですが,パスポートを導入していない人も多いということを,まずは押さえておくべきでしょう。

そもそもフォントは買い切りが基本で,パスポートは比較的新しいサービスです。
モリサワの例でいうと,モリサワパスポートが開始したのは2005年からです。
それ以前は,みんな必要なフォントをMacの台数分購入していました。金額にすればかなりの額だったと思います。

フォントの歴史を見れば,OCFからCIDになり,そして2002年にOTFが発売となりました。
写研などの汎用機からMacに切り替え,フォントもOCF→CIDと高い費用を捻出して買い足してきたDTP各社も,InDesign+OTFが主流となると,再度費用を捻出してOTFをを買い揃えました。

そして2002年〜2004年にかけてOTFをMacの台数分購入したのに,いくら年間5万円で全フォント使用できるといっても日常使用するフォントは限られているわけで,滅多に使用しない多くのフォントのために,わざわざお金を毎年払うというのは理にかないません。

(感覚的には,購入済みのフォントに対して,わざわざお金を払い続けているとなるでしょう。)

しかし2005年以降,Macの台数を増やす際であれば,必要なフォントを一式購入するよりもパスポートのほうがハードルが低いので,パスポートにしようというようになってきました。
とはいえ,Macの台数が変わっていないのであれば,パスポートにする意味は皆無です。

なお,個人のデザイナーやイラストレーターさんなどは,投資としてOTFを初期から導入する人もいましたが,しばらくはOCFやCIDを使い続けている人も多々いました。

今ではOTFを持っている個人のデザイナーやイラストレーターさんも多くいますが,いまだにOCFを使用している人もいると聞きます。

以上を踏まえると,たとえば「リュウミンR,新ゴR」のみを使っているといっても,何も知らずにパスポートに入っている「リュウミンR Pro6,新ゴR Pro6」を使っており,そのデータを「リュウミンR Pro,新ゴR Pro」しか持っていないデザイナーさんに渡せば,バージョンが異なるのでデフォルトのゴシック体に置き換わってしまいます。
(もちろん,気を利かせて変換してくださる方もいらっしゃいます。)


何も知らずに現状の環境だけを学んで仕事をしていると,このようなケースに遭遇して二度手間,三度手間となってしまいます。しかし歴史を少し知っておくだけで,効率よく,そして気分よく,よりよいものが仕上がっていくと思います。