2013年7月30日火曜日

選択肢と場合の数

先日,Twitterにて項目応答理論のことを少しツイートした。

項目応答理論とは直接は関係ないが,間接的に関係する選択肢について,少し書いておこうと思う。

センター試験はもちろん選択肢であるが,高校入試においても選択問題というのは多く存在する。

特に,受験者数の多い東京や神奈川,愛知などは,採点効率を上げるためなのか,選択問題が多いのも特徴である。

このような選択肢を多様した入試は,「いかに選択問題によって学力の違いを正確に測れるか」ということももちろん考えられているが,それ以上に,「いかに学力がないものが偶然によって正解してしまう確率を減らせるか」ということも考慮しているのではないかと想像する。

そんなことを想像しながら,問題をつくる立場として,どのような選択肢がよいかということを,今回は「場合の数」をもとに考えたいと思う。

具体的な例として,文章穴埋め問題を取り上げてみる。

例えば,文章中に2つの空欄( X )と( Y )があり,それぞれが「A」または「B」のどちらから選択しなければならないとする。

このとき,それぞれAかBのどちらかなので,場合の数としては,2×2=4 で,4通りの選択肢ができる。

具体的に示すと,
ア X:A Y:A
イ X:A Y:B
ウ X:B Y:A
エ X:B Y:B
となる。

これが,3つの空欄( X )( Y )( Z )とると,2×2×2=8 で,8通りの選択肢ができる。

具体的に示すと,
ア X:A Y:A Z:A
イ X:A Y:A Z:B
ウ X:A Y:B Z:A
エ X:A Y:B Z:B
オ X:B Y:A Z:A
カ X:B Y:A Z:B
キ X:B Y:B Z:A
ク X:B Y:B Z:B
となる。

これは選択肢の組み合わせであるが,組み合わせではなく,それぞれ2択の問題として答えさせる入試ももちろんある。

しかし,この選択肢の並びは今年の愛知県の入試で出題されたもので,実際に組み合わせで出題されることもある。

ここで注目すべきは,アのA・A・Aから始まり,クのB・B・Bで,AとBの並び方にルールがあることである。
並び方に必然性があることで,問題解答者にの学力とは関係のないところでの,変な勘違いやイージーミスを減らすことができる。
ときどき,この選択肢の並べ方がバラバラなものがあり,「バラバラな中から選ぶのも学力の一つだ」という声も聞こえるが,果たしてそれは学力なのかと疑問に思うこともある。
純粋に理解できているかどうかだけを問うのであれば,並べ方に必然性があったほうがよいと私は考える。

また,入試によっては,場合の数としては8通りであっても,4択しか示せない場合もある。

今年の神奈川入試では,3つの空欄に対して,増加・減少のどちらかが入るというパターンの選択問題があった。
ここでは,問題の内容は考えず,とりあえず選択肢の並びだけに注目してみる。

実際の選択肢は,
ア X:減少 Y:減少 Z:増加
イ X:減少 Y:増加 Z:減少
ウ X:増加 Y:減少 Z:増加
エ X:増加 Y:増加 Z:減少
である。

ここには,
オ X:減少 Y:減少 Z:減少
カ X:減少 Y:増加 Z:増加
キ X:増加 Y:減少 Z:減少
ク X:増加 Y:増加 Z:増加
の4つの場合の数が消去されている。

実はこの問題は,生態ピラミッドに関する問題の選択肢であるのだが,生態ピラミッドの問題において,そもそも上記のオやクというのは,解答としてはほぼありえない。
選択肢が増えることで見間違いによるイージーミスを誘うくらいであれば,選択肢は少ない方が,より学力を正確に判定できると思う。

また,ここではアが正解だとすると,選択肢の定石として,その逆を置いておくということもある。ここではエがそれにあたるが,まったく反対の理解をしていないかということを確認することもできる。
では,イとウについての必然性であるが,まずこの2つは逆の関係にあり,上記の定石としての組み合わせとしてはよい。
では,同じくカとキの逆の関係との違いはどこかというと,残念ながら私にはイとウの組み合わせを選んだ出題者の意図は読み取れなかった。

実際の問題を見てみると,私ならばカとキの組み合わせでもよいのではないかと思う。
なぜなら,この問題であれば,XとZに逆の言葉が入るような印象を受けるからである。
このあたりの判断は,神奈川の実入試を見て,個々に判断してもらいたい。

というわけで,内容に深く踏み込まずとも,選択問題の選択肢についても,いろいろと工夫は凝らされていることは理解できる。

判定テストを制作する人たちは「こんなの当たり前だよ」と思うかもしれないが,意外と世の中に出回っているテストにも,このようなことが全く考慮されていないものは多数あり,イージーミスなどによって,実際は理解できているのに,実力以下の評価を受けている子どもたちがいないとはいいきれない。

作問する立場として,子どもたちに正しい評価が出る作問をしたいものだ。