蒸散は“現象”なのか“はたらき”なのかというのが,ときどき話題となります。
教科書での表現如何にかかわらず,学者や先生によって,考え方が異なる部分のようです。
しかし,現在の中高生物においては,“現象”と表現しているほうが多いような気もします。
さて,その蒸散ですが,たとえば「植物の表面から水分が蒸発する現象」というような表現で教科書等で示されています。
つまり,植物が何かしらのエネルギーを利用して行っているわけではなく,気孔が開いているときに,水が水蒸気として気孔から出て行ってしまうということです。
このように定義すると,はたらきと考えるよりも現象ととらえるほうが自然な気がします。
では,気孔がどうして開いたり閉じたりするかというと,孔辺細胞の浸透圧や膨圧が変化するからです。
根からの吸水が高くなり孔辺細胞の膨圧が上がると,孔辺細胞が湾曲して気孔が開き,その結果として気孔から水蒸気が蒸発していきます。
逆に乾燥状態になると孔辺細胞の膨圧が下がるので,孔辺細胞が湾曲が小さくなって気孔が閉じ,その結果として気孔からの水蒸気の蒸発が減ります。
なお,植物体が乾燥状態になるとアブシシン酸という植物ホルモンが合成され,孔辺細胞の濃度が高まります。
アブシシン酸は孔辺細胞の浸透圧を下げるので,液胞から水分が失われることで膨圧が下がり,気孔が閉じて植物体からの蒸散量が下がります。
逆に水分量が多いときはサイトカイニンの濃度が高まり,気孔が開きます。
このように考えると,アブシシン酸やサイトカイニンなどの植物ホルモンの“はたらき”で気孔が開閉し,その結果として蒸散量が増減しているといえるので,蒸散は“現象”としてとらえたほうがしっくりしそうな気がします。
いかがでしょうか。