2010年1月31日日曜日

正しい漢字とは

昨日,国立国語研究所で行われた文字研究会のワークショップに行ってきました。

知り合いが発表するということもあり行ったのですが,なかなか楽しいワークショップでした。


さて,そのワークショップとは直接は関係ないのですが,文字について少々思ったので,話題に取り上げます。


現在,理科の教材の多くは,いわゆる明朝体といわれるフォントを使用しています。

小学校では,教科書体を用いることもありますが,理科であれば小学生用教材でも明朝体もそれなりにみかけます。


さて,文字研究の専門家ではないので詳しいことは知りませんが,明朝体とは中国の明から清の時代あたりの木版印刷等で発展した活字に由来があるようです。


また,明よりも昔の宋の時代にも木版印刷は存在しており,あまり馴染みはありませんが,宋朝体とよばれる活字もあるようです。

いずれにしましても,専門家ではないので,正確な情報を知りたい方は調べてみてください。


さて,活版とは,文字を木に彫ることによって始まったものですが,その際に曲線の多い楷書体を彫ることは難しかったため,直線を多用した明朝体とよばれるものが発展しました。

そのため,印刷業界では明朝体が主として用いられるようになったわけです。

日本においても少し前までは活字を並べた印刷が行われていたわけですから,写研,DTPと時代が進んでも,明朝体が業界における基本フォントとなるのもうなずけるでしょう。

さて,そんな明朝体は,あくまで彫りやすい文字ということでデザインされた文字ですから,いわゆる正しい漢字とは異なり,学校等で習う漢字,フォントで言えば教科書体と比べるとまったく違う字に見えるものも多々あります。

特に現代では,そのような明朝体を正しい漢字として間違えて覚えてしまっている人もいるようで,私もときどき,明朝体のデザインで文字を書く人を見かけます。


さて,ここから理科の話に少しずつ入ってくるのですが,パソコン等のコンピュータが発展することで,データで印刷物の制作をするようになりました。

しかし,コンピュータで用いられている文字コードというのは完璧ではありません。

例えば,葛飾区の「葛」の字,この字は正しい漢字ではありません。

正しくは,次のようになります。



書籍を制作する人にその知識があれば,意識して外字を使用して正しいものにするでしょうが,世の中の多くの書籍はJISコードそのままに載せているため,間違った漢字を見る機会のほうが現在は多いでしょう。

そのため,間違ったほうを正しい字だと思い込んでいる人のほうが多いのではないかと感じます。

このような文字として理科に影響してくるのが,「餌」という字です。
中学までは漢字を開くことが多いので影響はほとんどありませんが,高校以上では漢字を用いることもあります。

この「餌」という文字の食編がJISコードでは間違っています。

正しくはといっても明朝体なので,本当の意味で正しいかわかりませんが,次のようになります。



私もかつて,右の正しい字のように「餌」を書くときの食編を習ったのに,この業界に入ってからほとんどの餌が間違った食編になっていて,自分が間違っていたのか…と思ったことがあります。

しかし実際は,文字コードのほうがおかしかったわけです。

ただし,上記のものは明朝体です。3画目が横線になっているのが本当に正しいのかどうかが,私にはわかりません。

ブログを書く上で教科書体の外字が用意できなかったので,またどこかで教科書体の「餌」の字を見てみたいものです。

いずれにしましても,教材においては,せめてJISコードの間違いだけは修正しておきたいものです。

といっても,中学までの教材であれば,ほとんど気にすることはないと思いますが…。


なお,このJISコードですが,WindowsVistaでは修正されたものコードが搭載されるようになり,「葛」「餌」ほか複数の漢字が正しいものになりました。

しかし,それは環境依存文字ですので,DTPなどへもっていくと間違ったものへと戻ってしまうなどの不具合もあり,結局,印刷物の制作においては,編集や校正の方が気をつけるしかありません。


このように,漢字一つとっても,教材では意識しておいたほうがよいものがありますので,意識して制作するほうがよいでしょう。

ところで,いまだによくわからないない文字が,「シナプス間隙」等で使用する「隙」の字です。
右上は「小」,「少」のどちらが正しいのでしょうか。

私は高校時代「少」で覚えましたが,現在の教材はほぼすべて「小」ですし,国語辞典も「小」ですので,「小」が正しいのでしょう。

では,「少」を用いる字が存在するのはなぜでしょうか。

知っている人がいましたら,教えてください。