1週間前になりますが,東京理科大学の森戸記念館で行われました,日仏教育学会 2009年度 研究大会 の 公開シンポジウム「科学教育の今日的課題 -子どもの理数離れをどうするか-」に行ってきました。
日本の子どもたちが現在,学校で習う理数への関心が世界的に見て薄れているのではないかという話題を,よく耳にします。
そのことに対して私もいろいろと興味がありまして,この公開シンポジウムに参加してみました。
さて,日仏教育学会なので,日本とフランスの教育を比較しての話となりますので,まずは前提となる日本とフランスの教育制度の違いをあげると,以下のようになります。
日本 フランス
小学校1年 エコル CP1(準備クラス)
2年 CE1(初級クラス)
3年 CE2
4年 CM1(中級クラス)
5年 CM2
6年 コレージュ第6級(前期中等教育)
中学校1年 第5級
2年 第4級
3年 第3級
高 校1年 リセ 第2級(後期中等教育)
2年 第1級
3年 テルミナル(最終学級)
本シンポジウムはフランスの研究者からの発表もあったりと,ふだんは聞くことのできない貴重な話を聞くことができ,その中でも興味深かった点についてお話していきます。
フランスの前期中等教育であるコレージュの第6級では,物理・化学は習わないようです。
それは,日本で言う生物や地学(シンポでは生命科学と地球科学と表現)が生徒にとってとっつきやすいものであるからだそうです。
そして,第5級~3級にかけて,物理や化学も扱われるようになるのですが,その物理や化学についても,生命科学や地球科学に関連することを多く取り上げることで,より生徒たちに実感として伝わるようにしているとのことです。
また,日本では理科と技術は別教科という位置づけですが,フランスでは「科学と工学の統合教育の試み(EIST)」という,科学や工学に対する統合的な見方をもち,生徒たちがこれらに興味をもちやすいようにすることを目的とした試みを行っているとのことです。
その一環として,もともとは別々の教師によって行われていた3つの科目(物理・化学,生命科学・地球科学,工学)が,1人の教師によって行われるようになり,そのことによって,3つの科目間での影響関係が深まり,生徒の科学や工学への好奇心をかき立てられるようになったほか,フランス語(国語)や数学などとの結びつきも強くなたようです。
また,リセの第2級では,文系も理系も同じ科学教育を受けるようですが,文系の生徒は第1級以降は科学を行わないようで,あくまで科学は教養の一部であるとか。
教養の一部ではありますが,その教養というのは,理系の生徒以外にも科学を利用する市民育成の意味からも,科学教育を保障するものであるとのこと。
対して理系は,より深い内容まで学び,本物の科学教育を学び,技術系に進んだ生徒もより専門的に学ぶようになり,そのレベルは日本で言う大学2年生くらいまで行うようです。
さて,これらはシンポジウムのほんの一部の内容ですが,いろいろと考えさせられるものがあります。
フランスで言う工学科目が日本で言う技術科目と同じかどうかは分かりませんが,科学と工学を分けて学ぶことの意味は,確かにないように感じます。
男性のほうが傾向としては多いのかもしれませんが,科学好きには工学好きが多いというのがあるかと思います。
そのような理系志向の生徒がより科学に興味をもち,専門分野に進んでいってもらうようにするためにも,科学と工学をいっしょに学ぶ意義はあるように感じました。
フランスの教育に関しても課題はまだまだあるということもシンポジウムでは言っておりましたが,とりあえずこの「科学と工学をいっしょに学んでいく」という考え方は,私としてはかなり共感を得られるものでした。
また,教員養成に関する話題もあり,日本の2週間程度の教員実習とは違って,フランスでは3年間で学士を取得したあと,2年間の修士課程があり,その2年目に多くの実習があり,教師に求められる高度な実践能力を養っているようです。
なお,この3年+2年も,ヨーロッパの他の国の動向に合わせて,5年間で修士取得を教員免許取得資格の最低条件とすることに変更されたとか。
この修士までの取得や多くの実習をするという考えが,現在の日本で政府や文部科学省などが提案している教員免許制度改革に関連しているのではないかと考えられます。
いずれにしましても,図書教材制作という立場ではありますが,理科教育に少なからず関わっているものとして,このような動向には耳を傾けていたいものです。
なお,本シンポジウムにはレジュメのない部分もあったり,フランス研究者の話の内容を翻訳していただきながら聞いたりと,私の受け取り方に間違った部分があるかもしれませんので,ご了承ください。