2010年2月13日土曜日

蒸留と分留

蒸留と分留の用語の違いについて,今日は記しておこうと思います。

中学校の教科書だけを見ていると,蒸留という用語の意味があやふやになりかねないので,分留との違いを高校の教科書や辞典をもとに,まとめておきたいと思います。


さて,蒸留について,中学校の教科書ではどのように示されているかというと,次のようになっています。

・東京書籍
『液体を熱して沸騰させ,出てくる蒸気(気体)を冷やして,再び液体にして取り出すこと』

・啓林館
『液体を加熱して沸とうさせ,出てくる気体を冷やしてふたたび液体にして集める方法』

・大日本図書
『液体を加熱していったん気体にし,それをまた液体にして集める方法』

つまり,「液体を蒸発させて気体にし,それを再び液体にすることが蒸留である」というように読み取れます。


では,高校の教科書ではどうかというと,次のような表記です。

・東京書籍
『海水から純水を得る場合のように,混合物である溶液を加熱して目的とする成分を蒸発させ,再び液体にして回収し,残った溶液と分離する操作』 

・啓林館
『液体を含む混合物を熱して沸騰させ,その蒸気を冷やして液体の分離,精製を行う操作を蒸留といい,海水から水(蒸留水)を取り出すなど,沸点差の大きい混合物でよく行われる』

高校の教科書の表記では,混合物の分離も含めて蒸留であると読み取れます。

また,高校の教科書では,中学校の教科書と違って,分留についても述べられています。

・東京書籍
『沸点の異なる2種類以上の液体からなる混合物も,成分物質のわずかな沸点の差を利用して,適当な温度範囲に分けて蒸留することにより分離することができる。この操作は分留と呼ばれ…』

・啓林館
『沸点差の比較的小さい液体混合物を蒸留により適当な温度間隔で区切って分離することを特に分留(分別蒸留)といい…』

つまり,「沸点差を利用して混合物を分離する方法はすべて蒸留というが,特に沸点差の小さい混合物を分離する場合は分留と呼ぶ」というように読み取れます。


では,辞典を調べてみます。

岩波書店の理化学辞典では,蒸留を次のように述べています。

『溶液を部分蒸発させ蒸気を回収して残留液と分離する操作』

なお,分留については記されていませんでした。


東京化学同人の化学辞典では,次のように述べています。

『液体混合物の成分分離を行う操作』

なお,分留については,「分別」の項でまとめられており,「分別」とは次のような意味であると述べられています。

『性質の似たいくつかの物質(または成分)から成る混合物を,それらの物質の物理的・化学的性質のわずかな差を利用して,それぞれの物質(または成分)に分離する操作』


以上より,啓林館の高校教科書で分留を「分別蒸留」と括弧で示しているように,分留とは,蒸留の中の一部であり,かつ分別の中の一部であるということが読み取れます。

中学の教科書だけ見ると,あくまで「液体を蒸発させて気体にし,それを再び液体にすることが蒸留である」と読み取れなくもないですが,蒸留という用語には,混合物を分離するという意味も含まれているということが,高校の教科書や辞典から分かります。


なお,中学校の教科書も,その部分だけを見ると誤解しがちですが,

・東京書籍
『沸点のちがう液体どうしの混合物は,蒸留を利用して,それぞれの物質に分けることができる』

・啓林館
『蒸留を利用すると,混合物中の物質の沸点のちがいにより,物質を分離することができる』

・大日本図書
『蒸留を利用すると,いろいろな液体の混ざった物質から,沸点の違いによってそれぞれの液体を分けてとり出せる』

というように,もちろん混合物の分離まで含めて,蒸留の話は展開されています。


理科の本質は用語を覚えることではないと思っているので些細なことかもしれません。

しかし,教材を編集している私が中学校の教科書をじっくり読んでいると,このような表現だと若干誤解して意味を読み取ってしまいそうになります。